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経営コラム 

「人の強みを生かす人材育成のヒント」

ドラッカーに学ぶ新しい人事の考え方

人事の使命とは何か

人事は、いつの時代も受難であった。人事の歴史は苦難の歴史であると言って過言ではない。

バブルの時代を思い起こしていただきたい。世間は浮かれ騒ぎをしていたが、人事は人手不足の解消のために売り手市場で優秀な人材を確保するのに大変な苦労をされたことだろう。この優秀な人材というのが、なかなかにくせ者であったりもする。それが、落ち着いたと思ったら、なんとバブルが崩壊していただけのことであった。今度は、人手が余る、どなたにお引き取りいただくかに、肝の冷える毎日である。好況、不況にかかわらず、その時その時世の問題点が人事で吹き出してくるような有様である。

バブル崩壊後、いまだ経済の建て直しも十分にうまくゆかず、先行き不透明な、日本は、それでも世界の競争社会の中で生き残るための闘いをせねばならず、他方においては、先進国としての責任を果たし、グローバルな社会で各国が共存共栄していくための手段を模索し世界に貢献せねばならない。それを成し遂げるのは誰か。例えば、企業社会においては、それは、これからのリーダーたち、グローバルな視点を持ち、どこに出ても自分自身の中に信念を持ち、自らの得意分野において、周囲をリードしていくことのできる優秀な人材である。

本来、企業において人材ほど大切なものはないはずであり、それは多くの人が承知していることである。その人材を確保し、配置し、育成する人事の仕事は、企業の肝心要である。それなのに、人事の仕事が総合的かつ戦略的に考えられることが少なすぎたのではないか。このままでは、これからの世界に通用するような優秀な人材が育ってはいかない。

バブルの間は、ただに「採用」に焦点が当てられてきた。その後のロストディケイドは「リストラ」の嵐だった。この10年間は特に、個人を評価する仕方が、どちらかというと減点方式になっていたのではないか。人の弱みとか、失敗、時には失態に焦点が当てられていた。誰がこの場にふさわしく(´´´´´)ない(´´)のか、ということばかりに気がいっていたのではないか。いや、そうせざるをえなかったのかもしれない。しかし、人の弱みに焦点を当てている限り、企業に明日はない。

ドラッカーは、「成果をあげる組織は、人間の強みを生かす。彼らは弱みを中心に据えてはならないことを知っている。成果をあげるには、人間の利用できる限りの強みを使わなければならない。強みこそが機会である。強みを生かすことが、組織の特有の目的である」(『経営者の条件』上田惇生訳ダイヤモンド社刊より抜粋)と教えてくれる。これからのグローバル社会に生きる優秀な人材を持ち続ける企業は、人の強みに焦点を当てる企業である。世界は広い。上を見ればきりがないほどに、ありとあらゆる優秀な人材が存在する。そのような中で、弱みを掘り返して、一つひとつ数え上げ、矯正しているような余裕はない。特に人を扱う立場にある人事はこのことを決して忘れてはならない。人事の本来の使命は「人の強みを最大限に生かす」ことにあるはずである。

 

いかにして人の強みを知るか

では、人事はいかにしてその使命を果たすべきか。そのなすべきことは何か。

その第一は、社員一人ひとりに自分自身、上司、部下、同僚の強みは何かを意識させることである。

強みを生かすには、まず、社員一人ひとりが自分自身の強みを知らなければならない。その場合、自分が考える強みと他者から見た強みは違っている場合が多々ある。したがって、自分自身の強みを明らかにすると同時に、共に働く人々の強みについても明らかにし、その内容をそれぞれにフィードバックし合う。そして、社員一人ひとりの強みが明らかにされたリストを作成し、場合によっては公開するのである。

第二に、個々に明らかになった強みをもとに、その強みをさらに発揮するには、どのような職務を担当するべきか、将来どのようなキャリアを経るべきか、また、そのために新たに必要となる能力や知識は何かについて、上司と相談の上、具体的なキャリア計画を作成するのである。

第三に、現在の職務において、個々人の強みがどれだけ発揮されているのか、その発揮度合いを評価しなければならない。評価方法はそれぞれに工夫すればよいのだが、できるなら5段階基準のように数値化するのがベストである。その評価は、自己評価をベースにして、必要により周囲の人の評価も本人にフィードバックするとよい。その評価点数は部門ごとに集計し、部門長にフィードバックするとともに、今後の部門運営、人材配置のあり方について計画づくりのデータとして活用してもらうのである。さらに、その全社の評価点数は、全社員の強みがどの程度発揮されているのかを知るための人事の成果指標として活用するとよい。

もうすでに人事評価制度を導入しておられる企業が多い中で、また新たに評価制度を作るのかと思われるむきもあるであろう。しかしながら、現在行われている人事評価の大半は、人の強みがどこにあるのかということに焦点を当てられてはいない。従来の評価制度は評価制度として、賃金の決定などの資料のためには欠かせないものかもしれない。しかしながら、既に述べたように、それのみでは、企業に明日はない。何らかの形で、工夫をして、新たに人の強みを評価する仕組みを作られることを強くお勧めしたい。必ずしもこの評価結果を賃金に反映させる必要はないと思う。

※表1

 

能力は仕事の中でこそ向上させる

さて、実際に人材を育成するにあたっては、「リーダーとしての力を発揮しなければならない仕事を与える」ということが重要となってくる。我々は、「人を育成するもっとも役に立つ教育の道具は、仕事である」というドラッカーの言葉を忘れてはならない。特にマネジメント力をつけるには経験が必要であり、実践の場で、しかも、マネジメント力が必要とされる立場での経験が必要である。そのような立場が与えられていないのに、マネジメント力だけをつけさせようと思ってもそれは無理な話であろう。マネジメント力をつけるには、挑戦的で、大きな責任と権限が伴う仕事が必要となってくる。

しかし、ここで問題となるのは、現実には、なかなか責任も権限も委譲されていないことが多いということである。その原因の多くは、経営管理者の職務設計の問題に起因すると見受けられる。例えば、上司である管理者の職務範囲が狭いため、それを部下に渡してしまうと自分の仕事がなくなるといった場合には、責任と権限を渡したと言いながらも、その仕事に口や手を出してしまうことが、よく見られる。たいがいの場合、上司は部下のためにと思っているし、「なぜ権限委譲したのに、あなたがその当該の仕事をまだやっているのか。」と問われると「部下の指導をしているだけだ」と答える。この指導はいつまで、かかるのであろうか。

上司が忙しくて、かまってくれない。経験もないのに何でもやらされるという企業ほど、人材の育成が比較的うまくいっている理由はそこにある。これを解決するには、組織における管理者の職務範囲をできるだけ大きなものにすることであり、上司に「組織全体の成果に貢献するために自分は何をなさなければならないか」を考えさせることである。真剣に考えれば考えるほど、やりきれないほどの仕事があるはずである。上司の仕事が多すぎて、誰かに任せざるをえないという状況をつくること、それによって、はじめて将来リーダーになってもらいたい部下に、責任ある大きな仕事が割り振られていくだろう。

講義よりアプライ(実践への適用)を重視する教育

 しかして、その責任ある仕事で成果を上げるには、何を学ばなければならないか、どのようなマネジメント力をつけなければならないかを明らかにすることの必要性が出てくる。

では、どのような教育が必要なのか。どのような教育であれば、マネジメント力がつくのか。

ここで強調したいのは、「マネジメント教育は、講義よりアプライ(実践への適用)を重視したものでなければならない」ということである。ドラッカーによれば、マネジメント教育は「受講する」ことではない。しかし、これまで多くの企業が行ってきたマネジメント教育の典型パターンは、2、3日間の新任管理者研修会を開催するなど、管理者としての基礎知識を習得するための研修であった。「その後のフォロー研修も行っております」、と言ったところで、知識を得ただけで優れたマネジメント力が身につくものではない。学んだことを実践に適用し、さまざまな経験をすることによって、はじめて優秀な管理者となることができるのである。

マネジメント教育は例えばゴルフを学ぶことに似ている。2、3日講義を聞いたところで一人前のプレーヤーになることなど考えられない。ゴルフを教えるのに、講義だけで終わるようなスクールはないはずである。必ず学んだことを実践するようになっていて、どんなふうにグリップを握ればよいのか、どんなふうにスイングすればよいのかなどを学びながら、何度も実際にボールを打ってみて、悪いところは矯正してもらいながら繰り返し、繰り返し練習をするはずである。その後、実際にコースに出て、さまざまな経験を積み重ねて力をつけていく。初めてコースに出ると、打ちっ放しで打つのとは全然違うことに気づくであろう。良いスコアーを出そうと思ったら、実際にコースに出て何度も失敗しながら、経験を積んでいくしかないのではないだろうか。

マネジメント力を身につけることも、これと似ているはずなのに、ほとんどのマネジメント教育は、教室の中だけで行われる講義やケーススタディーで終わってしまい、実践への適用がなされないことが多く、それでは力はつかない。学んだことを必ず実践に適用し、その結果を考察し、次にどうするか、自分のやり方の何を改善すべきかを考えることが、マネジメント教育の中に組み込まれていなければならない。

多くの企業が優秀な人材の不足に悩んでいるにも関わらず、例えばアメリカの企業などと比べて、教育研修にかける費用や時間が格段に低いのは、現在提供されているようなマネジメント教育では成果が上がらないと認識されているからであろう。

実際にゴルフにおいて、素人が短期間で良いスコアーを出そうと思ったらどうするだろう。ある特定のコースにおいて、アップダウンがきついとか、フェアーウェアーが狭いとか、風が強いとか、といったコースの特徴を研究し、さらにホールごとの攻め方も会得した上で集中的に何度も練習を重ねてみると、そのコースでは良いスコアーを出せるのではないか。マネジメント力をつけることもこれと似ていて、自分たちの事業における特徴や自社の経営課題を踏まえた上で、その時必要とされるマネジメント手法を集中的に学び、学んだことを実際の仕事に適用してみて、それでうまくいかなかったら、どこが悪かったのかを考え、さらに違うやり方を試してみる。そのような方法で学ぶなら、今現在の社内に必要とされているマネジメント力を備えた人材が育つはずである。

このように、マネジメント教育においては、その学ぶ内容はそれぞれの企業の経営課題を踏まえたものになっていなければならず、いくら有名で実力のある講師の話を聞いても、その内容が自社の経営課題を解決することに関連するようなものでなければ、成果は上がらないはずである。自社で成果を上げるマネジメント教育を実施するためには、経営陣が外部の講師任せにせず、マネジメント教育のプログラムやテーマ設定に積極的かつ主体的に関わる必要がある。

※表2

新たな第一歩

以上のような点を十分に考慮され、それぞれの組織にあった最良の人材育成プログラムをお作りいただくように、さらにご注力いただければと考える。人事の担当者の方々には、もうこれ以上、悩み苦しんでいただきたくないと思う。それくらいなら、何か新しいことにチャレンジしていただきたい。今日、この瞬間から始められることでいい。小さな一歩でいい。例えば、一番身近くに働く部下の強みは何であったのか、もう一度見直すことから、いかがだろうか。

(日本能率協会マネジメントセンター発行『人材教育』2001年4月号掲載)

 

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